エングラム




その他にも色々とあったことを思い出していたら、シイが声を出した。

「読むに耐えないんだが」

「読まないでくださいそこ」

恥ずかしくなって肩を上げて反発する。

「だって卵を割るなんて残虐です。新しい命への冒涜です」

「言ってたらきりがないな…」

シイが額を抑えて溜め息をついた。
すぐに塩と砂糖を間違えたことに対しても弁護する。


「塩と砂糖も薬物も白い粉ってことで同じですよ?」

「同じじゃねえ。最後の一つシャレにならない」

「じゃあ塩と砂糖と洗濯用洗剤」

「料理に何か怨みがあるのか…?」

更に言い返そうと思ったが、もう分かったとシイが手を振る。

「一緒にやるぞ」


その一言で、私はシイ宅の厨房に立った。




普通に綺麗ですね。
男の台所は汚い、というイメージが払拭された。

「それは何より」

言ってはないが、また伝わったらしい。

Tシャツにラフな格好になったシイが手を洗いながら言った。

私は今朝からそのままだ。あ、着替え。

「オレの貸すよ。──無難なレトルトカレーにするか」