エングラム




心臓の音も聴こえない。

クラスペディア。
心の扉を叩く。永遠の幸福。


「──…ありがとう、シイ」


今日までを思い出して伝える。

シイは口の端を少し上げて目を細めると、私の手に唇を付けた。


「今流れてるのはEagleのDESPERADOだな」

呟き、もう一輪持っていた紫の花も私に渡す。

流れた時直ぐに気付いた。──オウ兄に渡された唄。
オウ兄からの最後の贈りもの。


「紫蘭」


私の名であり、花の名。

「美しい姿」

空いた手で、私の髪を撫でた。

「変わらぬ愛」

その手が私の頬に移動する。

「──あなたを忘れない…」


低い声で囁かれた、私の名。花言葉。


「お前が望むようにお前を愛そう」


それは自然だった。


甘い言葉。花の香り。ゆったりとした音楽。


それが揃っていたから、もう頭の芯から溶けてしまっていて。


「永遠と、変わらぬ愛と。お前の名に掛けて誓おう」


初めて──互いの唇を重ねた。