エングラム




シイはわざとらしく、やれやれ、と頭を振った。

笑う私を横目に、シイはバケツから花を抜き出した。

ケイの花束だろうか、と考えていた私をシイが手招きした。



ちょうどギターの音が伸びて、Wonderful Tonightが終わる。



「シラン」



シイが持っていたのは、紫と黄色の二輪の花。

「クラスペディア」

前にも教えてもらった、黄色い花の名。

「別名はドラムスティックだ」

頷いて、私が言う。

「花言葉は、個性的…でしたっけ」

「ああ。けどそれだけじゃない」

シイは私に一輪、丸っこいボンボンのような黄色い花を渡す。


「──心の扉を叩く」


思わずシイの目を見た。
眼鏡越し、真っ直ぐに。

「もう一つが」

そのまま、彼から目が離せない。
曲はいつの間にか、別のものが流れている。


「──…永遠の幸福」


私のクラスペディアを持つ手をシイが掴んだ。

少し、彼の言葉を待ってから私が言う。

「似合い過ぎてますね」

本当にそうだ。
彼らの音を聴いた日から私の世界が変わったから。