エングラム










駅から歩いて30分ぐらいの所。
シイのお店、Flower Shop Arpeggio。


お花屋さんの奥。
戸で仕切られたそこから先が、シイの住居らしい。

普段は花屋の裏口──というか家の玄関?──から入るらしいが、

「花見たいか」

私が一つ返事で頷いて、花屋の方の扉を開けてもらった。

「うわぁーっお」

ちょうど良い甘い香り。
洋風な、控えめで綺麗なお店。

「今日、臨時休業だし。まあ好きにしろ」

なんか臨時休業多そう。
思ったが言わない。

「だって今日はたまたまバンドコンテストあったからだ。基本、休みは毎週土曜のみ」

言わなかったが伝わっていたらしい。

「あー…コンテスト」

ケイがいなかった。震えが止まらなかった。興奮した。結果が出なかった。
そこから先も思い出し、少し沈む。

つい数時間前の出来事だと信じられない。

シイはそんな私を一瞥し、花に包まれた空間にBGMを流す。

「クラプトンのWonderful Tonight」

頭の中でタイトルを和訳してみる。
オウ兄から渡された曲を和訳していたから、少し慣れた。

──今宵は素晴らしい、という意味か。