エングラム




「とりあえず、ま」

階段を下り終え、シイが金属の扉を開き軽く腰を折る。

そのまま胸元に手を添えて、どうぞ、と紳士的な動作。

「お前はオレのものってことで。ハニー」

建物を出てから、私は答える。

「出会った時から、それこそ今更ですよ」

本当にそうだ。
出会った時───…か。


もうこの人以外考えられない。


「お前まだ14なのにオレに限定して良いのかー?」

「だってシイが良いんですもん」

負けないように、できるだけ平常を装い答える。

「あー…ソウデスカ」

口元を覆った仕種。
心の中で小さくガッツポーズした。

あんまり私の心の中見ると、こう負けをみますよ?
だって、ねぇ。

ふふっ、と声が零れた。
シイはなんとも言えない表情。

くだらなく、ふざけながらシイの家へ歩いた。


夏の夕方。
溶けそうなほど甘ったるい恋を持ちながら歩いた。