エングラム




「ま、まじか……?」

何今の冗談だったんですか。
私いかにも空気読めないって感じですねこれ。

そう考えていたら、みるみるうちにシイの顔に朱がさした。

「あ」

口元を手で覆った仕種を見て、照れてると表情が弛緩した。

「……行くぞ」

ベースをしっかり背負って、シイが歩き出してしまった。

良いんだ。今日一晩一緒なんだ。

駄目だ私ってば薄情だ。
ケイのことがあったくせに、こんな喜んじゃって。

けどなんとなく、感じた。
ケイのことで一人沈まないように、傍に居ようとしてくれたんじゃないかって。

階段に差し掛かって、シイが私に手を差し出した。

照れ臭いが、今はもう素直に掴める。


「さてじゃ、家には何て電話しようか」

「えっーと…」

こんなこと想像もしてなかったからなあ。
男子と付き合ったこともないし、あんまり話さないし。

「花嫁修行?夜のお勤め?」

「花嫁しゅ…って、どっちも止めてぇえ!」

シイがくすくすと笑みを漏らす。
不覚、やっぱりときめく。