「当たり前だろ」
シイが私の髪の毛を一房手にとる。
「……あの、シイ」
顔が赤いまま、ごほんと一つ咳をする。
ここ、タクシーの中なんですからね。
「はいはい」
そのまま、手を髪の毛に滑らせる。
手が離れて、車内が静かになる。
「ケイ…治るんでしょうか…」
目を伏せて、そう尋ねた。
あの亜麻色は、再び音の中で透けることはないのか。
「…片腕のベーシストなんて、それこそ少なくはないんだ」
あんまりメジャーじゃないが、Bill ClementsとかBill Evansとかな。
窓の外を見ながら、シイがそう言った。
「ジミヘンみたいに歯で弾くのも一興ですよね」
ジミヘンとは、ジミ・ヘンドリックスのこと。
アメリカが生んだ偉大なミュージシャンだ。
ギターを歯や背中で弾いたりと、パフォーマンスがすごい。
ケイがそんな風に弾く姿想像つかないけれどそう言ってみた。
「あぁ、ケイには似合わないかな」
あの可愛い亜麻色の髪をもつ少年が弦に噛み付くのなど似合わない。



