エングラム




「すみません、そのまま行ってください」

ユウは答えずに、窓越しに運転手に言った。

シイも私も、目を丸くする。

「私はまだ用事があるので」

「おい…!ユウッ!」

シイがタクシーから飛び出した時には、ユウは既に背を向けて病院内へ戻ってしまった。

「…ユウ……」

用事って、何。
明らかにケイに関する用事だろう。

微妙な雰囲気の流れを断ち切ったのは運転手だった。
お客さん、どうしますかと。

シイは一度表情を険しくさせると、タクシーに乗り込んだ。

「すみません、お願いします」

そのまま駅名を告げると、タクシーは走り出した。

「──ユウ、用事って何でしょうね…」

「……さあ、な」

つか、あいつ帰りの金あんのかな。
シイが軽く笑った。

確かに行きはシイが全額出してくれた。

「……すみません…いつか払います…」

金額の表示が上がったことに気まずさを覚えながら頭を下げる。


「まぁ嫁になって体で返して貰うかな」


冗談ですよね。
そう言わせない横顔に、こんなことがあった後とは言え紅潮した。