エングラム




Real Love。
最後の曲がこんな時に流れるなんてずるい。

そう思った。

白い扉を閉めた時。
見えたケイの笑顔がからっぽに見えて仕方ない。

「…帰りましょう」


右腕を失ったベーシスト。
それを考えて、足が重くなった。


誰も何もそのことには触れない。

これから自分たち、どうなるんだ?
なんてこと、当然。

どうなるんだ。
──事実、今日のライブはケイがいなくても完成したのだ。

ぎりぎり完成してしまったのだ。

もしここでケイを失って演奏が出来なかったら、こうならなかった。
、、、、、、、、、、、、
完成した事実を知っている。
だからやり切れないんだ。


「ケイじゃなきゃ…」

それでもやっぱりケイが良い。
ケイの音が良い。ケイの声が良い。

だってケイは言っていた。

──僕ら三人でクラスペディアだ──

私は予備軍でしかないって。
だから、ねぇ。


病院前の乗り場で、タクシーを拾っているシイの腕を掴んだ。

「──…ケイは…」

それだけしか言えずに、黙る。
シイは何も言わずに、私の肩をぐいと抱くと。
タクシーに乗り込み、ユウに早く乗れと促した。