エングラム




「──…あ、これ」

聞き覚えのあるメロディー。

最初は重苦しい雰囲気。
シュッ、と聞こえる言葉。

「THE BEATLESのCome Togethr」

嫌味たらしいな。
シイが呟いて、はっと笑った。

そう。初めて弾けるように練習したのがこの曲だ。
懐かしいと、目を細めた。

「この曲はね」

ケイが歌声を背景に、言う。



「ビートルズの末期に作られた曲で」

あぁ、なんか嫌だ。

「それぞれが好き勝手に弾いてるの」

続けて一言、またぽつり。

「これを弾いてたビートルズはバラバラだったんだよ」

じゃあ私が前になんでこの楽譜を渡されたか。
答えは簡単だ。
──もう末期だった。

私がベースを始めたとき、ケイには終わりが見えていたということだ。

「僕さあ」

まだ曲は続いている。


「…前みたいにベース弾けないって…」


ケイの陰った表情に、慌てて言葉を探す。

「リハビリとかで──」

「細かい指の動き、リハビリしても難しいらしいよ」

にっこり。
笑顔で言われる。