エングラム




速る心臓を抑え、ユウが口にしたケイの病室の番号を探す。

「──あった」

シイが番号が書かれたプレートを見つける。
その下には、こんなことになるまで知らなかった、ケイの名前。

「…鈴木…惠太…」

よく考えれば、シイの名前も。ユウの名前も知らない。

「失礼します」

ユウは建前とばかりに、コンコンと適当に白い扉を叩くと返事も聞かずに取っ手を引いた。


「──いらっしゃい、みんな」


直ぐに、ケイの声が向けられた。

事故に遭ったという姿を認めるのが怖く、俯いていたが顔を上げる。

「……ケイ…」

呟いたのは誰の声だったか。


「ごめんね。行けなくて」


いつもと変わらないボーイソプラノ。

清潔な白いベッドを、まだ明るい陽が光で染めている。


「だからシランちゃんにベース教えて正解だったよお」


そのベッドの上で、ケイは上半身を起こしていた。

動かなかったシイが、ケイのベッドに歩み寄る。
続いてユウも歩み寄り、ベッドの傍らの椅子に腰掛けた。


「シランちゃんもおいでよ」


そう言ったケイの右腕と右足には、包帯が巻かれていた。