エングラム




シイは軽く眉を寄せる。
話したくなかったとその表情が言った。

「──っ…。言ってくださいよ…」

その表情に、口調が弱くなる。

「ユウは電話で、ケイが事故に遭ったって言われた」

そんな会話聞いてない。
と反論しようとして気付く。
、、、 、、、
だって、シイだ。

シイはユウの心を読んで知ったんだと気付く。

「なんで私に教えない…?」

年上には敬語を使う。
常識も忘れ、少し声を低めて聞く。

「お前が怖がるからだ」

捕まれていた腕に力が加わる。
彼の目が少し釣り上がっていることに気付いて、目を背ける。

身勝手な優しさ。
それを向けられるということは、弱いからだ。

「病室、聞きました」

ユウが私たち二人の肩に手を乗せる。

「早く。行きますよ」

入ったエレベーターの中で、最悪なことを考えた。

──もしも、ケイが──。

思い出すのは駅前で輝くあの歌声。

重い空気を閉じ込めたエレベーターが目的の階に着いた。