エングラム




「……私の表情、変ですか?」

「はいっ!?…いえ別に」

答えると、ユウはそうですかと言う。

「ケイは別に意識不明でもないらしいです、話を聞いた限り命に別状は」

「……は、はぁ…」

だったら良かったです。
どうして病院に?
そう続けると、さぁ、聞いてませんとユウは答えた。


霞みがかっていた思考は晴れる。

──あぁ、別になんともないんだ…。

盲腸とかそんなとこかな、と軽く思う。


小さく胸を撫で下ろす私は、シイとユウが意味深な視線を合わせていたことなど知らなかった。


胸を撫で下ろして、気付く。

「お前……ベースは?」

ベース、あの廃ビルに置きっぱなしだった。

「あ」

ユウが自分も楽器を忘れていたと声をあげた。

「……シイはどうなんですか」

「スティックとかペダル入ってる鞄ならちゃんとあるぞ」

しまった。
よく考えればあれはケイから借りている物だ。
それを忘れるなんて。

「盲腸のケイに怒られますね…」

ふっと自嘲気味に呟いたら、

「は?」
「はい?」

シイとユウが同時に言った。

「だって入院と言ったら盲腸」

「盲腸なんて誰が言った。なんだそのイメージ」