エングラム




「………病院って」

変なドラマの見すぎか。
癌だったのか、とかそんな。
ふやけた思考の切れ端が頭の中を埋め尽くす。

「いやユウは癌なんて言ってねーし、心当たりない」

シイが私の頭をペシリと軽く叩く。

「ユウお前もかなり動揺してるな」

痛くもない頭を押さえながら、シイの視線をたどる。

その先にいるユウは、いつもと変わらない。

「だってチカラがあるやつの心は大抵読めないのに──すげぇ分かる」

「それ以上」

ユウが視線を断ち切るように手を振る。

「言わないでいただけますか」

「………」

シイは息を吐くと立ち上がった。
軽く腰を折り私に手を伸ばす。

「行こう」

その手を借り立ち上がり、三人でケイのいる病院へ向かう。




時間の流れは相変わらず遅い。
やけに私たちは、冷静だった。
いや、頭が状況についていけなかった。


どっかの漫画のように慌ててタクシーを拾うことなく、普通にタクシー乗り場から乗った。

病院名をシイが運転手に告げた。
運転手との雑談は、シイだけだった。

そこでユウも動揺しているのだと分かった。
キツネ目に張り付いていた笑みが凍っていた。