エングラム




その声の中に、オウ兄を見つける。

線の細い顔立ちなのに、少し派手にみせてくる黒髪の天然パーマ。

頭の中のオウ兄は、私が好きな笑顔を見せる。
そしてその口が動いた。
何か言うように、ではなく。何か唄うように。

──そしてシランと呼ぶ声が聞こえたなら、

「あのっ、シイ」

くいくいと再び服の裾を引っ張った。

「何だ?」

止んだ透明な声。

「イーグルのDESPERADOって知ってますか」


──オウ兄が唄った、くれた曲。



「あぁ、知ってる。名曲過ぎる名曲だからな」

「それって、」

頭の中で笑ったオウ兄。

「どんな意味を込めた唄だと思いますか?」

私が聞くと、シイは思案するように視線を動かして答える。

「そう、だなあ。──呼び戻すというか…帰ってこいと言うような曲…か?」

どんな意味かと聞かれるとな、シイは言葉を濁らせた。

「帰ってこい…ですか」


そうだとしたら、オウ兄は私に帰ってこいと行ってるの?

謎に沈みそうになった私を、シイの声が掬い上げる。

「曲の意味は受け取り手によって変わるからな」

だけれど今は、送り手が込めた意味を知りたい。