エングラム




駅前でケイとユウと別れてシイと電車に乗った。

歩きながら肩が触れそうな距離。
そんな近くに人がいるなんて不思議な感じ。

「けどもう慣れただろ?」

その言葉と共に、がしがしっと頭を撫でられる。

「やめてくださいっ」

私の髪が汚いとか痛んでるとかシイに思われるかもしれない。
汚いって言われたんだから。

そんな不安を直ぐに抱えてその手を払いのけると

「綺麗な髪だから」

安心して、とシイがまた私の頭を撫でた。

不安。だけれど。
気持ちが良くて、その手は払えなかった。


オウ兄に頭を撫でられたとき、私がその手を振り払ったきり。
オウ兄は頭を撫でて来なかった。
手を振り払ったのは、私なのだけれど。

本当は撫でてほしかったのだけれど。

心と行動が一致するとは限らない。
シイは──そんな私に、よく気付いてくれて。

「……シイ」

名前を呼べば

「何だ?」

──そう答えてくれるあなたが好きです。