エングラム




ケイの胸が私の背中に触れた。

「え、わ」

反射的に避けたくなって体に力を入れてしまった。

「力入り過ぎかな」

耳元でボーイソプラノ。
細い腕がぬっと伸びてきた。
いやこれ力入っちゃう、思いがけない密着。

「こうね、こう」

規則正しい心臓の音を感じながら、私は背中のベーシストの指先を追う。

ベースの弦はギターより硬い。思っていたよりは太い指だった──まぁ私とあんまり変わらないけど。

たまたま触れた手の皮が少し硬いことにも驚く。
可愛い顔してやっぱり男の子だ、なんてやばいやばい。

「ふふふっ」

耳元でケイの声が怪しげに鳴った。

うわあ。と思わず指を止めたら──

めりっ、と背中にいたケイが剥がれた。

「げふんげふんっ」

わざとらしい咳をしたシイが、ひょいとケイの首ねっこを掴んでいた。

「もう、ヤキモチ屋さんなんだからシイ」

楽しそうにケイが言った。

「わざとだろ、お前ぜってぇわざとだろ」

「だって練習だもぉん」

「彼女に告げ口するぞおい」

ケイは呆気にとられる私に視線を一度向けて、シイに言う。