エングラム




そうさりげなく指摘されるとチクリと痛む。

だがそうだ。
これは越えられない壁。

「けどシランちゃん、これできるようにしといてね」

もしかしたら、なんて微かな期待をその言葉の中に点す。

「頑張ります」

「うんっ」

ケイがきらきらの笑顔を見せる。
やっぱり、何故?
どこか寂しい笑顔だ。

灰色の中、シイが私たちの方を見た。

お互いケイの表情に気付いたのだろう──軽く視線を合わせた。

そのくせユウのいつもの笑みはやっぱり崩れていなかった。


「さぁ今日はシランちゃんスラップという技法を教えてあげよー」

「スラップ?」

ケイに問い直す。

「チョッパーとも言うんだけどね、曲完成させる上では必要なの」

「………チョッパー」

某トナカイキャラクターを思い出して呟いた。

いきなりシイがぶはっと噴き出して、彼が持っていたスティックが私の頭に飛んできた。

すっこーん、とナイスに当たって。
そのトナカイのキャラクターが頭の中から逃げ出した。

「ふっ」

ユウの唇の端から笑い声が漏れた。