エングラム




オウ兄のお母さんに挨拶をして、自宅に戻った。

「たーだいまー」

お帰りの言葉を聞いて自室に入る。

適当に座り、ガサガサと音をたてて紙袋を開けた。

「──っ」

中を覗き込みそれを出す。

レーベル面に何も書かれていない白いCDと、シンプルなデザインの封筒。

手紙だ、と思うと心臓が止まりそうになった。

《シランへ》

見慣れた懐かしい字が、優しい。

封筒を開けようとする手が小刻みに震えてる。
なかなか力が入らなくて開けられない。

「オウ兄」

今は手紙を読むのはやめよう。
私はCDを聴こうとプレーヤーをコンセントに繋いだ。
それにCDを入れて再生のボタンを押す。


「──…?」

流れ出したのは哀感ただようピアノのしっとり濡れた音色。

そこに英語で唄う男性の透き通った声が入ってくる。

「英語苦手だって…オウ兄知ってるくせに」

リスニングも壊滅的な私は、言葉の意味は分からないが何故か寂しい唄に耳を預けた。

寂しいけれど、温かみのあるカントリーなピアノの音色。
震える雫のような声。