エングラム




それからいつものように駅を出た所で別れて、帰宅した私は荷物を置いて再び家を出る。
もちろん何故か借りている英和辞典も置く。


「オウ兄んとこ行ってくる!」

台所から母の嬉しそうないってらっしゃいの声がした。

母は私がオウ兄と慕っていのも知ってるし、彼がいなくなってからその名を沈めていたのも知っている。

「オウガくんによろしくね」

その声に笑いながら答えて、すぐお隣りの家へ向かった。

今まで窓を伝って行き来してた距離を歩くのは回りくどいな。

インターフォンを押してすぐに、オウ兄のお母さんは扉を開けてくれた。

「シランちゃん」

以前に会った時よりシワが増えた。
そう感じて少し切なくなる。
オウ兄のお母さんは私を見て顔を綻ばせた。

「お久しぶりです。手を合わせてっても良いですか?」

「えぇ、えぇ。もちろんよ」

玄関に通された私にこんな言葉が降る。

「渡したいものがあったのよ」

「………渡したいもの、ですか?」

幾分間を開けて問い直す。
そのまま仏壇のある部屋に通される。

写真の中にあるオウ兄は、特別綺麗な笑顔とかそんなんじゃなくて。
よく見ていた、自然体の顔だった。