エングラム




お葬式の時に見たオウ兄のお母さんの姿を思い出す。

背中に乗せた悲しみが重そうだった。

「──オウ兄…」

「あのさお前」

あ、少し不機嫌な声だ。
シイの横顔を見る。

「オレが隣にいるのにオウばっか呼んでんだけど」

眉を寄せて、低い声を尖らせる。
………つまりこれは…。

嫉妬か、もう可愛い。
思わず口の端が上がってしまう。

さっき考えていたことが一瞬でどこかに行ってしまう。

「可愛い言うなっ」

「言ってはいませんー、思っただけですー」

語尾を上げながらそうからかうと、シイは口元を手で覆って少し顔を背けた。


電車の中なので少し声を潜めて、こんな会話をした。


改札口を通った所で、さっきの仕返しだと。
シイが私の手を奪ってそこに唇を落とした。

手にされたキス。

「オレの勝ちだ」

人前で恥ずかしいのだけれど、嫌な視線は感じなかった。

シイの悪戯っけな笑みに、心臓が撃ち抜かれた。