夏休みが始まって初めての土曜日。
私はいつものようにベースを背負い、廃ビルへ向かった。

灰色の中に入ると、音が零れていてそれに自然と口元が緩んだ。

「あーっ、シランちゃん一学期お疲れー」

階段を上りみんなが練習しているフロアに顔を出すと真っ先にケイの笑顔がかかる。

みんな暑いのか、黒いジャケットを腰に巻いていた。
シイとケイはTシャツ、ユウは半袖のワイシャツだ。

「ケイも。お疲れ様です」

「お疲れ様です」

ユウもギターから顔を上げて、私に言った。

「そちらこそ、お疲れ様です」

そう返して、この順番ならシイだ。
シイが私を見て口を開いた時──

「はぁーっい、全員ちゅうもぉくっ!」

絶対わざとだ。
ケイがボーイソプラノで明るく声を上げた。

エレキドラムの前に座っていたシイは立ち上がり私に少し笑いかける。

「みんなこれ見てえ」

ケイはズボンのポケットから細かく折り畳まれた一枚の紙を広げ、集まった私たちに見せた。

「えーっと、これ…」