エングラム




「おー、可愛い可愛い」

カウンターで腕を組みながらニヤニヤと笑ってシイは言った。

「可愛くなんかないですっ」

いじられてる。
いや分かってますがやっぱり嬉しいです。

シイがゆっくり立ち上がる。

「照れんなシラン」

「もう良いシイなんて知りませんもんっ!好きじゃないんですからねふんっ」

ばっちり好きだけどね。
いやそりゃもう好きだよね。

顔が赤いままそう言って、鼻を鳴らした私は──あー…どんなツンデレなんだろう。

小さな白い花が入ったバケツに手を伸ばしていたシイが、ぴたっと止まってから言う。

「ん?誰が誰を好きじゃないって?」

ニヤニヤと笑って、バケツから花を一輪抜いた。

「べっつにー」

「言っとくがお見通しだかんな。お前がオレを好きなのは分かってるが、さっきの言葉は気になんぞ」

とりあえずもう一回言え。
と、追い詰められる私。

「いや、あの、その!」

「──言ってみろ」

「……え」

シイが私を見た。

「誰がオレを好きにならないって?」

悪戯っけな笑みに、心臓が早鐘を打つ。

本当の気持ち分かってるくせに。
たった一回の言葉の過ちって重い。以後気をつけます。

「えっと…ですね」