エングラム




シイはそれだけ言うとカウンターに戻り、そこにあったイスに腰掛ける。

「お客様、お好きなもので花束もお作り致しますよ」

「うわぁー、すごーい」

早速どの花にしようかな、と私は選びはじめる。

「やっぱオレが選んで決める」

「…うわぁ」

そう言ってシイが立ち上がった時、ちょうどいとしのレイラが終わった。

「あ、この花なんですか」

よく見る黄色いキクの隣にある花を指差した。

「あぁー、ドラムスティック」

シイが私の指差した先を見ずに答えた。

確かにスティックのような形をしている。

「別名、クラスペディア」

黄色い花の部分はボンボンのように丸く、直立した茎が伸びている。

「ちなみに花言葉は個性的だとか」

へぇ、と返事をした私は知らなかった。

「バンドの名前。こういう意味だったんですね…」

──シイが敢えて言わなかったもうふたつの花言葉を。


ところで、と私は切り出す。

「ドラムスティックで思い出しましたが、シイって家ではどんな練習してるんですか?」

ドラムは場所を選ぶ楽器だ。
音を調整できるわけではない。

「あぁ、エレキドラム使ってる」