エングラム




「アルペジオ。分散和音とも言うな。コード…和音をバラして弾くことだ。奏方は──」

「いや音楽的な説明はいいですから!お店っ」

慌てて私は突っ込んだ。

「今日は貸し切り」

入口にかかったプレートの臨時休業という文字が目に入った。

花に囲まれた、お店。

シイは扉を開けて、軽くお辞儀をして言う。

「いらっしゃいませ」

ときめいたのは、言うまでもない。




たまにシイから香るのは、お店の花の匂いだったんだ。

内装は洋風。控えめで綺麗。

色とりどりの花が並んでいる。

「うわぁすごいですね」

あ、この花綺麗。などと、私の目が動く。

「適当に曲流すな」

小さく花が添えられたカウンターの奥でCDを出しながらシイが言った

「あ、カーネーション」

並ぶバケツの中に赤い花を見つける。

今年母の日あげたっけ。
と思いだそうとした時、ギターの音が流れた。

「あ」

有名な、有名なギターリフ。

「いとしのレイラ」

シイが曲名を言った。

次いで、曲の説明を続ける。