エングラム




だってシイは。
人の心に踏み込むことができる人だから。

「お前限定」

そんなこと言いつつ、きっと今までも人の傷に触れたのだろう。

「触れすぎて見たくないもんも見たがな」

「だから読まないでくださいってばああ!」

笑いながら、さぁ行くぞと。
彼は歩きだした。

うぅ、手繋ぐとかなしかぁ。

恥ずかしいから言えないな…けど。

案の定、ばっちり伝わっていた。

斜め上、隣少し前。
シイと目が合った。
悪戯っけに彼は笑う。

「繋ぎたかったら言え。行くぞ」

乙女心を汲み取ってほしい。

「男のロマンも汲み取ってほしい」

「読まないでくださいシイっ!」

結局手を繋がず、読まないでと何回か私が叫んで歩いた。





シイの花屋さんは、駅から歩いて30分ぐらいの所にあった。

ささやかな、可愛い雰囲気のお店。

《Flower Shop Arpeggio》

花を邪魔しない、控えめな彩りの看板。

「フラワーショップ…アル、」

「アルペジオ」

シイが私の言葉を継いだ。