エングラム









待ち合わせは、駅前。
午後1時。

「人多いなぁ」

日曜日の正午、しかも駅前という場所だから人が多い。

この人の波で窒息死して倒れても、誰も気付かないかもしれない。

「…ベース持ってきた方が良かったかな…」

背中にない、重み。

いやデートだもんね。
言ってて恥ずかしいけどね。
デートだしね。

「シイ」

まだかな。

ポケットから携帯電話を出し時間を確認する。

待ち合わせ時刻5分前。


「──お待たせ」

「シイっ!」

肩に手が触れると共に、かかる声。

「ごめん、待たせたな」

「いえ───」

うわぁ大人の魅力。
黒い髪をうっとうしそうにかきあげた仕種にときめく。

黒と白のTシャツにブラックのジーパン。
あと黒のスニーカー。

シイ、黒が似合う。

「ありがとう、シラン」

「読まないでくださぃい!」

いやまじで勘弁。恥ずかしい。

くすくすと笑うシイに、うー、と唸った。

「オレほどお前の隣に相応しい奴はいないな」

自信まんまん。
あぁ、もう。そうだから悔しい。