軽く眩暈を起こしながら、魔王は瞼を押し上げた。

だがまたすぐに瞼を閉じる。とても目を開けていられなかった。

「ティターニア……」

名を呟き、眉根を寄せる。

「何故邪魔をする……」

指先で目頭を押さえ、呟く。

『ティターニア』だけではない。自分の“器”である『この男』も、最後の最後で邪魔をした。

憎き勇者の末裔である赤髪の男の命を、奪いそびれた。

彼の胸を貫いた刃は、急所を僅かに外していた。カインが邪魔をしたからだ。

未だ思うようにならないこの身体を忌々しく思いながらも、徐々に心は晴れ渡っていく。

魔王はいつもの玉座ではなく、広々としてゆったりと座れる、柔らかいソファに腰掛けていた。

その膝の上に頭を乗せて、今さっき連れ帰ったばかりの少女が眠っている。

莫大な力を使いすぎたからだろう。少女はしばらく目を覚ましそうになかった。

子どものように身を丸めて眠る、その愛らしい寝顔に目を細め、兄のように優しく微笑みかけた。

「お帰り、リディアーナ」

ハニーブラウンの髪をさらりと撫でてやり、そして細い肩に手を乗せた。

「共に世界を滅ぼそう」


君の世界から美しい色を奪い去った、憎き人間を、滅ぼすために。