随分と、安らかに眠れたような気がする。

こんなに安心して眠れたのは、ギルドの傭兵になる前──まだ、生まれ故郷にいたころ以来ではないだろうか。

柔らかなぬくもりに包まれて、何の夢を見ることもなく深い眠りからふっと目覚めた。

「ん……」

一瞬だけ開いた瞼はすぐに下り、ふかふかと気持ちの良い布団の中に顔を埋める。

任務中はもちろん、ギルドの寮にいるときでさえ、二度寝などあり得なかったフェイレイだが。

随分と心地よいベッドだった。このまま目覚めなくても良いと思えるくらいに。

ごろりと横に転がり、柔らかな抱き枕を掴み、抱きしめる。

その抱き枕が甘い花の香りを放っていて、思わず口元が緩んだ。

「なんだこれ、リディルと同じ匂い……」

そう呟きながら更に抱き寄せて。

はっと、気がついた。

抱いているものの感触や温もりが、枕のものではなく……人のものであることに。

「え?」

パチ、と目を開けて、恐る恐る『抱き枕』から顔を離してみる。そうして見えてきたものは、なんと枕ではなく、リディルだった。

一瞬、頭の中が真っ白になる。

何度も瞬きをしたり、目を擦ったりして確認してみたが、安らかな寝顔ですうすうと寝息をたてているのは、間違いなくリディルだ。