「母さん!」

広い支部長室には、母のアリアと秘書官のブライアン、そしてヴァンガードの両親がいた。

それから、もう一人。

黒衣の騎士が。

短い黒髪に漆黒の瞳を持つ二十代半ばほどに見える騎士は、胸に皇家の紋章をつけていた。

騎士は黒いマントを揺らしながらフェイレイたちに近づいてくる。

そして、長い足を折り片膝をつくと、胸に右手を当て、リディルに向かって恭しく頭を下げた。

「お迎えに上がりました。リディアーナ=ルーサ=ユグドラシェル皇女殿下」

目の前で頭を下げる騎士に、リディルは何が何だか解らず、ただ瞬きを繰り返した。

「皇女殿下には、これより、皇都にご帰還いただきます。兄上様がお待ちです」

「……兄?」

「はい」

騎士は頭を下げたまま、答える。

「惑星王、カイン=アルウェル=ユグドラシェル皇帝陛下にございます」

そこにいた全員が、ハッと息を呑んだ。

惑星王。

この星を治める最高位の存在の名前に。

「皇女殿下。このセルティア国を平穏無事に保つためにも、どうか、皇都へご帰還くださいませ」

「どういうこと、ですか?」

「殿下が戻られなければ、陛下はこのセルティア国を殲滅させるとのお考えです」

騎士は残酷なまでに淡々と、そう告げた。

そのための艦隊が、この上空には浮かんでいた……。