微妙に日が暮れている。
真っ赤な夕日に照らされる河原院は、美しくもあり、不気味でもある。

「思ったほど、荒れてはおりませぬな」

車から降り、呉羽は屋敷を眺めた。
多子は、呉羽にぴったりとくっている。

「さて呉羽。何か見えるかい?」

そはや丸が、のんびりと手を頭の後ろで組んで言う。
呉羽は束の間、じっと屋敷を睨んでいたが、やがてぽつりと呟いた。

「今は多子様のほうが、わかるのではないですか?」

とりあえず、呉羽の目には何も‘見えない’。

「わからないわ。ただ、怖い・・・・・・」

恐怖が感覚を麻痺させてしまっているのか、多子は先程までの軽口はどこへやら、呉羽の腕に縋り付いて、震えてる。

「おいおい。そんなことで、大丈夫なのかよ。頼りねーな」

そはや丸が、呆れたように多子に言う。
多子は、じろっとそはや丸を睨んだが、言い返すことなく唇を引き結んでいる。

「やめておきましょうか?」

呉羽は、多子に問うた。
しかし多子は、ぶんぶんと首を振る。

ここで帰ると言ってくれれば、余計なことに首を突っ込まずに済むのに、と思いつつ、呉羽は仕方なく足を踏み出した。