それから半刻ほど後、呉羽と多子は、右丸の操る牛車の中にいた。
牛車に従う従者(ずさ)が牛飼童一人というのは、いかにも無用心なので、人型のそはや丸が、右丸の反対側の屋形の横を歩いている。
「うふふ。お姉様を想う殿方二人が、お姉様を守るべく控えている。物語のようね」
そわそわと忙しなく視線を彷徨わせながら、多子は相変わらず、にやにやしながら言う。
「今守らねばならんのは、わたくしではなく多子様ですよ」
何を言ってるんだか、と言いたいのを呑み込み、それでもやはり素っ気なく呉羽は答えた。
「でも、私はお姉様が守ってくれるもの」
無邪気に扇の向こうからにこりと笑う多子に、呉羽はため息をついた。
「とりあえず、鞠を落とさないよう、気をつけてください」
「そう思って、ちゃんと紐をつけてきたの」
多子はそう言って、鞠を腕にぶら下げて見せた。
牛車に従う従者(ずさ)が牛飼童一人というのは、いかにも無用心なので、人型のそはや丸が、右丸の反対側の屋形の横を歩いている。
「うふふ。お姉様を想う殿方二人が、お姉様を守るべく控えている。物語のようね」
そわそわと忙しなく視線を彷徨わせながら、多子は相変わらず、にやにやしながら言う。
「今守らねばならんのは、わたくしではなく多子様ですよ」
何を言ってるんだか、と言いたいのを呑み込み、それでもやはり素っ気なく呉羽は答えた。
「でも、私はお姉様が守ってくれるもの」
無邪気に扇の向こうからにこりと笑う多子に、呉羽はため息をついた。
「とりあえず、鞠を落とさないよう、気をつけてください」
「そう思って、ちゃんと紐をつけてきたの」
多子はそう言って、鞠を腕にぶら下げて見せた。


