「こんなんじゃ、物の怪退治なんぞ、できるわけなかろう。これはいらん」

呉羽は言うなり、つい先程そはや丸が着付けた衣を、全て床に脱ぎ捨てた。

「ま、そっちのほうがお前さんらしいが。いいのかい? 誰のお屋敷に行くんだよ」

最後に呉羽は、長い髪を首の後ろで一つに括りながら、にやりと笑った。

「三条邸」

呉羽の言葉に、そはや丸が息を呑む。

「そりゃあ・・・・・・。権門だな」

三条家といえば、今をときめく藤原氏だ。

「だが、藤原氏には、お抱え陰陽師がいるんじゃないのか? 何でわざわざ、お前のような外法師を使うのだ」

「さぁね。お偉い方々の世界には、一介の外法師には考えもつかない思惑があるのだろうさ」

さして興味もなさそうに、身支度を調えた呉羽は、そはや丸を振り返った。

「さぁ、さっさと刀になれ。それともそのまま、下男のふりをしてついてくるか?」

すっきりと巫女装束を着こなした姿は、それなりに美しい。
元々造りは悪くないのだ。

「嫌なこった」

黙っていれば、貴族のお姫様にも見えるのに、と思いながら、そはや丸はゆるゆると、姿を一振りの刀に変え、呉羽の腰に納まった。