「えらい格好だな。今日の客は、相当なお大尽か」

「依頼してきた者が、私の姿を見るなり顔をしかめた。あらかじめ着る物を用意してくれたほうが、楽だしの。報酬を値切られても、この衣は頂きだし、損にはならん」

呉羽が今身につけているのは、真新しい巫女装束だ。
今まで着ていた物は、すでにぼろ切れ同然だし、何枚かある着物も、そう綺麗なものではない。

元々死者から頂戴したものだ。
さすがに運ばれてすぐにひん剥くのは気が引けて、少し経ってから頂くのだが、そうすると脂などでどうしても汚れてしまう。

しかし今は、滅多に着ることもできない上等な布で仕立てられた、立派な巫女装束一式を身につけている。

「・・・・・・何故衣が余るのだ。これ以上、どこに着ると言うのだ?」

単と衣を着け、まだ何枚か余る着物を見やり、呉羽は自分の身体を見下ろす。

「お前は上物の着物ってものを、知らねぇからな。ほれ、この上にこれ。この帯で締めて、これを着る」

手際良く呉羽に着物を着せていくそはや丸にされるがまま、呉羽は人形のように立ち尽くす。

「・・・・・・重い」

「う~ん。巫女装束と言っても、えらい大袈裟だな。よっぽどの貴族か?」

呉羽の知る巫女装束とは、単に袴。
良くてその上に衣を一枚羽織るぐらいだ。
その軽く三倍ほどの衣を重ねられては、思うように動けない。