先程までの恐ろしさも忘れ、多子は呉羽に駆け寄った。
右丸も、心なしか嬉しそうに、多子の後に従う。

「お姉様、遅かったじゃない。怖かったのよ」

『・・・・・・』

「お姉様?」

何も言わない呉羽に、多子が訝しげな目を向ける。
そして、はっとしたように、一歩後ずさった。

「透けてる・・・・・・?」

多子は、思わず傍にいる右丸にしがみついた。
表情無く二人を見つめる呉羽は、まるで幽霊のようだ。

不意に呉羽の口から、男の声が漏れた。

『これは呉羽の影だ。こいつが案内する。ついて来い』

驚いた多子が、呉羽と右丸を交互に見た。
右丸も少し驚いたようだが、烏丸が入っているせいか、呑み込みが早い。

「大丈夫ですよ。呉羽様は、何か手が離せないのでしょう。この呉羽様について行けば、お屋敷に行けるはずです」

右丸の言葉が合図のように、呉羽の影は、くるりと方向を変えると、元来たほうへと進み出した。