「しっかしお前さんも、よくよく肝っ玉の据わった女子(おなご)だよ。屍に囲まれて暮らす女子なんざ、気味悪くて嫁の貰い手なんてつかないぜ」

「お前が憑いている時点で、嫁の貰い手など、あるわけなかろう」

言いながら呉羽は、ぬっとそはや丸の目の前に、着物を捲り上げた右腕を突き出した。

腕一面の、刺青のような紋様。
そはや丸との、契約の証。

「じゃあその腕、斬り落としてやろうか?」

意地悪く言うそはや丸に、呉羽は素っ気なく言う。

「ああ、かまわんよ。だが出来るだけ、一刀のもとに頼むぞ」

そはや丸は人に寄生し、宿主を蝕むが、彼を操ることが出来るほど強い宿主は、彼の主になれる。
そはや丸を操ることは、常人にはほぼ不可能だが、もし操ることが出来れば、無敵の強さを誇る妖刀を、意のままに出来るというわけだ。

ただ彼を操れるほど強い宿主であっても、唯一そはや丸が宿主を認めないときのみ、彼は己の意思で、宿主を斬り裂いて離れていく。

宿主に従うかは、そはや丸自身が決めるのだ。

従って、結局は宿主になれても、そはや丸に認められず、取り憑いた部分を斬り裂かれ、命を落とす者が大半なのだ。

呉羽の場合、憑かれた場所が右腕なので、腕一本斬り落とせば、そはや丸は自由になろう。
呉羽とて、命まで落とす大事には至らないかもしれない。

だが・・・・・・。

そはや丸は、ぷいっとそっぽを向いて、高坏の饅頭を取った。

「・・・・・・だから、お前は喰うなって」

ぴしりとそはや丸の手を叩き、彼から取り返した饅頭を、呉羽は自分の口に放り込んだ。