「あの、巫女様。夜道は危のうございます。お送り致しますので、どうぞ」

牛飼童に導かれるまま、三条邸の門に戻った呉羽は、待機していた牛車の周りを見渡した。

「左大臣様には、了解を得ております。さ、どうぞ」

簾を巻き上げ、呉羽を促す童に従い、車に乗り込みながら、呉羽は何気なく問うた。

「お前一人なのか?」

迎えのときは、従者(ずさ)が色々ついていた。
それぞれどんな役割があるのかは、呉羽は知らないが、たかが巫女一人の迎えにあれだけの人がついて来たということは、あれが普通なのではないか。

まして今は、夜なのだ。
昼より人数は、多いものではないのか。

「皆、昼間のことがありまして、私を敬遠しているようで・・・・・・」

力なく笑う童を、呉羽はじっと見た。

「お前、何を見たのだ」

ゆるゆる動き出した牛車の前の部分を全開にし、呉羽は前を歩く童に問いかけた。

呉羽はこの童を見たときから、何か違和感があった。
だが北野から三条邸までの道中、気を探ってみても、特に何もわからなかった。

頼長に言ったように、呉羽は見えぬ‘気’を探るようなことは、苦手なのだ。
だが妖気を感じられなくても、何かに憑かれているなら、見鬼の力でわかるはずだ。