頼長に再び挨拶をし、やっと三条邸を出たのは、すっかり日が落ちた頃だった。

『この夜中に、女子(おなご)一人で歩かせる気か? ったく、気が利かねぇ』

そはや丸がぶつぶつ言うのを聞きながら、呉羽は門を出て少し歩いたところで立ち止まった。

呉羽は夜目が利くほうだが、物の怪ではない。
月もまだ満ちていないし、この暗さを灯りもなしに蓮台野まで帰るのは、ちょっと大変だ。

「やはり、灯りだけでも借りるかな」

言いながら再び門に向かおうとした呉羽は、今しがた出てきた門から、小さな灯りが漏れているのに気づいた。
灯りは徐々に大きくなり、やがて門より松明を持った童が姿を現した。

「お前は・・・・・・」

門から出てきたのは、呉羽を迎えに来たときに、何らかの妖気にあてられていた、牛飼童(うしかいわらわ)だった。