さっさと立ち去ろうとする呉羽の背に、多子の制止の声がかかった。
「駄目よ! あなたは、私の護衛として招かれたんだから。これからは、常に私の傍にいなければならないのよ」
「・・・・・・はい?」
呉羽が再び、胡乱な目で振り返る。
「わたくしがお姫様をお守りするのは、河原院に行くときだけです。心配しなくても、いざ行くときになったら、御前に参りますよ」
「駄目! 今からずっと、傍にいて!」
しっかりと袖を掴んで言う多子に、呉羽は耳を疑った。
何を言っているのだ、この姫は。
大体、こんな堅苦しい貴族の屋敷にいることだけでも疲れるのに、この上子供の相手を終始しないといけないなんて、冗談ではない。
多子の手を振り解きたい衝動をぐっと堪え、呉羽は失礼にあたらないよう、注意して袖を掴んでいる手を、そっと放させた。
「何を申されます。大体わたくしは、官位も何もない、ただの地下人です。そのような者が、恐れ多くも左大臣様の姫君のお側に侍るなど、許されることではありません」
『お前の口から、そんな殊勝な言葉が出るとはなぁ』
何とでも言え、と、心でそはや丸に言い返し、呉羽は逃げ道を考えつつ多子に語りかけた。
「大丈夫よ。何と言っても、私の命がかかってるのよ。そんな大事な護衛を、みだりに袖にはできないわ。父上だって、認めたんでしょ?」
ひくひくと唇の端を引き攣らせる呉羽ににっこりと笑い、多子は彼女の手を引いて、渡殿を歩き出した。
「あ、あの。どちらへ・・・・・・」
珍しく冷や汗を流す呉羽に、多子は渡殿をずんずん進みながら言った。
「私の部屋よ」
「駄目よ! あなたは、私の護衛として招かれたんだから。これからは、常に私の傍にいなければならないのよ」
「・・・・・・はい?」
呉羽が再び、胡乱な目で振り返る。
「わたくしがお姫様をお守りするのは、河原院に行くときだけです。心配しなくても、いざ行くときになったら、御前に参りますよ」
「駄目! 今からずっと、傍にいて!」
しっかりと袖を掴んで言う多子に、呉羽は耳を疑った。
何を言っているのだ、この姫は。
大体、こんな堅苦しい貴族の屋敷にいることだけでも疲れるのに、この上子供の相手を終始しないといけないなんて、冗談ではない。
多子の手を振り解きたい衝動をぐっと堪え、呉羽は失礼にあたらないよう、注意して袖を掴んでいる手を、そっと放させた。
「何を申されます。大体わたくしは、官位も何もない、ただの地下人です。そのような者が、恐れ多くも左大臣様の姫君のお側に侍るなど、許されることではありません」
『お前の口から、そんな殊勝な言葉が出るとはなぁ』
何とでも言え、と、心でそはや丸に言い返し、呉羽は逃げ道を考えつつ多子に語りかけた。
「大丈夫よ。何と言っても、私の命がかかってるのよ。そんな大事な護衛を、みだりに袖にはできないわ。父上だって、認めたんでしょ?」
ひくひくと唇の端を引き攣らせる呉羽ににっこりと笑い、多子は彼女の手を引いて、渡殿を歩き出した。
「あ、あの。どちらへ・・・・・・」
珍しく冷や汗を流す呉羽に、多子は渡殿をずんずん進みながら言った。
「私の部屋よ」


