妖(あやかし)狩り~外法師・呉羽&妖刀・そはや丸~

「ただでさえ、いろんな気配とかがわかって怖いのに、さらにもっと怖い気が充満してるだろう内裏へ行かないといけなくて、この上宴の松原に引き込まれるなんて・・・・・・」

呉羽の目の前で、多子は鞠を抱きしめたまま、ぼろぼろと涙をこぼした。

『へぇ。なかなか可愛いガキじゃねぇか』

そはや丸が呟くと同時に、多子の濡れた瞳が、呉羽の腰に据えられた。

「その刀・・・・・・」

もしやそはや丸の声が聞こえたのかと思い、慌てて呉羽は、そはや丸の柄を握った。

「その刀も、力があるわね」

「な、何か、聞こえましたか?」

多子は一瞬怪訝な顔をし、首を振りながら呉羽の右側---そはや丸の反対側に移動し、呉羽に隠れるように、怖々といった感じで言った。

「何も聞こえないわ。でも刀にまとわりつくように、物凄い気が見える」

ははぁ、と、呉羽は、そはや丸を見つめる多子を眺めた。

---この姫の力は、本物だな---

呉羽の力は見鬼の力だが、字の如く‘鬼’を見る力だ。
要するに、人に仇なす物の怪や、魍魎(もうりょう)を見抜く力だが、多子の力は‘気’全体を見る力のようだ。

こりゃあさぞかし、陰謀渦巻く後宮などに入れば苦労するだろうな、などとのんびり思っていると、多子に袖を掴まれた。

「ねぇ。あなたはそんな恐ろしい刀を差していて、大丈夫なの?」

「そんなに恐ろしいですか?」

そはや丸は、確かに凄い力を秘めた刀だが、呉羽に害をなすわけではないので、特に何も感じない。
元々呉羽も、そはや丸を操れるだけの力があるわけだから、‘そはや丸は人に害をなさない’わけではなく、単に呉羽には害をなさないだけなのだが。

『ふふん。俺様の恐ろしさを、お前もちったぁ思い知れってんだ』

日頃呉羽に頭の上がらないそはや丸は、ここぞとばかりに鼻を鳴らした。