「お姫様の言う魔物とは、女子(おなご)のことでございましょう?」
このような童女が、後宮の女の争いのことを考えているかと思うと、空恐ろしい。
しかし多子は、ぐい、と顔を呉羽に近づけると、強い口調で言った。
「違うわよ! 知らないの? 内裏なんて、欲望渦巻く大人たちの集まりなんだから。化生(けしょう)のものだって、ごろごろいるのよ。宴(えん)の松原だってあるじゃない。あそこにだって、鬼がいると言われてるのよ」
内心呉羽は、舌を巻いた。
この童女は、後宮のみならず、内裏に仕える人間のことも見抜いている。
藤原氏のような大貴族の子供は、皆このような、どこか子供らしくない子供なのだろうか。
「人間の女なんて、怖くないわ。でもごろごろいる物の怪に参ってる隙に、意地悪な他の女御(にょうご)にやられるかもしれないじゃない。それとか、ひと思いに宴の松原に引き込まれてしまうかも・・・・・・」
言いながら、多子はぶるっと震えて鞠を抱きしめた。
早い話が、‘お化けが怖い’ということだろうか。
何だかんだと、入内を控えた姫君らしく振る舞っているが、やはり一人で知らないところに放り込まれることに、不安があるのだろう。
確かに、宴の松原のような、怪しげな場所もあることだし。
「それで、万が一宴の松原に引き込まれたときのために、鬼を撃退する方法を知っておこうという魂胆なわけですか」
「そんな怖いこと、言わないで!」
いきなり多子が大声を上げたので、呉羽はぎょっとして、二、三歩後ずさった。
このような童女が、後宮の女の争いのことを考えているかと思うと、空恐ろしい。
しかし多子は、ぐい、と顔を呉羽に近づけると、強い口調で言った。
「違うわよ! 知らないの? 内裏なんて、欲望渦巻く大人たちの集まりなんだから。化生(けしょう)のものだって、ごろごろいるのよ。宴(えん)の松原だってあるじゃない。あそこにだって、鬼がいると言われてるのよ」
内心呉羽は、舌を巻いた。
この童女は、後宮のみならず、内裏に仕える人間のことも見抜いている。
藤原氏のような大貴族の子供は、皆このような、どこか子供らしくない子供なのだろうか。
「人間の女なんて、怖くないわ。でもごろごろいる物の怪に参ってる隙に、意地悪な他の女御(にょうご)にやられるかもしれないじゃない。それとか、ひと思いに宴の松原に引き込まれてしまうかも・・・・・・」
言いながら、多子はぶるっと震えて鞠を抱きしめた。
早い話が、‘お化けが怖い’ということだろうか。
何だかんだと、入内を控えた姫君らしく振る舞っているが、やはり一人で知らないところに放り込まれることに、不安があるのだろう。
確かに、宴の松原のような、怪しげな場所もあることだし。
「それで、万が一宴の松原に引き込まれたときのために、鬼を撃退する方法を知っておこうという魂胆なわけですか」
「そんな怖いこと、言わないで!」
いきなり多子が大声を上げたので、呉羽はぎょっとして、二、三歩後ずさった。


