「ねぇねぇ、お姉さんが六条屋敷について行ってくれるの?」
頼長の御前を辞してしばらく行ってから、不意に声をかけられた。
呉羽は前を向いたまま、ふぅ、と息をついて、ゆっくりと振り返った。
「多子(まさるこ)姫様。何故あのような屋敷に行きたがります」
振り返った先、呉羽の少し後ろに、相変わらず鞠を手にした多子姫が立っている。
「ね、そうなのでしょ? あなたなら、大丈夫よ。きっと」
多子はきらきらと目を輝かせて、呉羽を見上げている。
「何故そんなことがわかる。下手に人など信じれば、己の命が危うくなりますぞ。わたくしが何者かも、あなた様は知らないでしょう」
お気楽な貴族の姫の道楽のために、危険を冒さなければならない呉羽は、相手が苦手な子供ということも手伝って、言葉遣いが荒くなる。
しかし多子は、そんなことは気にも留めないで、呉羽の傍に歩を進めた。
「父上様が、私のために探してくださった、外法師でしょ? それだけわかれば、十分じゃない? 私に相応しいかは、私が決めるわ」
相変わらず、生意気なことを言う。
こんな子供に、何がわかるというのか。
頼長の御前を辞してしばらく行ってから、不意に声をかけられた。
呉羽は前を向いたまま、ふぅ、と息をついて、ゆっくりと振り返った。
「多子(まさるこ)姫様。何故あのような屋敷に行きたがります」
振り返った先、呉羽の少し後ろに、相変わらず鞠を手にした多子姫が立っている。
「ね、そうなのでしょ? あなたなら、大丈夫よ。きっと」
多子はきらきらと目を輝かせて、呉羽を見上げている。
「何故そんなことがわかる。下手に人など信じれば、己の命が危うくなりますぞ。わたくしが何者かも、あなた様は知らないでしょう」
お気楽な貴族の姫の道楽のために、危険を冒さなければならない呉羽は、相手が苦手な子供ということも手伝って、言葉遣いが荒くなる。
しかし多子は、そんなことは気にも留めないで、呉羽の傍に歩を進めた。
「父上様が、私のために探してくださった、外法師でしょ? それだけわかれば、十分じゃない? 私に相応しいかは、私が決めるわ」
相変わらず、生意気なことを言う。
こんな子供に、何がわかるというのか。


