しばらくずんずん歩いていた呉羽だが、ふいにぴたりと足を止め、きょろきょろと辺りを見回した。

「・・・・・・迷った」

ぼそりと言った呉羽に、そはや丸の大きなため息が聞こえた。

『お前の、その方向に弱いのは、何とかならんのかね。すぐ迷うくせに、自信たっぷりに進んでいくのも困りものだ』

「だからお前が、人型でいれば良かったんだ」

『何故この俺が、下男などにならねばならんのだ。大体、端から武器になっておったほうが都合が良いと言ったのは、お前だろう。腕から刀を出現させるのも、人がいきなり刀になるのも避けたい。なら初めから刀でいるしかなかろうが』

そうなんだよな、と、呉羽は悪びれる風もなく、きょろきょろしながら歩き出した。

貴族の屋敷など、大体同じ造りだと思っていたのだが、やはりそれぞれ違うものだろうか、などと考えながらしばらく歩き、再び立ち止まって、呉羽はぽんと手を叩いた。

「そうか。そもそも私たちは、屋敷のどの部屋に通されたか、そこからわからなかったんだな」

『お前、それでよく女房を置き去りにして、勝手に進もうとしたな』

心底呆れたようなそはや丸の声にも、呉羽は動じない。

「何せ、でっかい建物のほうへ行きゃいいと思ってたんだ。だがこの屋敷ときたら、見えるもの全てがでかい。いや、困ったな」

言いながら、その場でくるりと回り、周りを見渡す呉羽に、そはや丸は慌てた。

『わーーーっ! 回るな! お前、ただでさえ方向が怪しいのに、回ったらどっちから来たかも、わからなくなるぞ!』

「そんなわけあるか。・・・・・・」

憮然と言いながら、再び歩き出そうとした呉羽の足は、宙で止まった。

『・・・・・・ほら見ろ』

その場に足を下ろし、呉羽はぽりぽりと頭を掻きながら、とりあえず今、身体の向いている前方を見た。

「・・・・・・どうしたもんかな」