「巫女殿、こちらへ」

簀の子に現れた女房が、呉羽を促した。
しかし立ち上がった呉羽の姿を見、眉を顰める。

「こちらからお送りしたお衣装は、もそっときちんとしたものであったかと思いますが」

「あのようにごてごてと重ねておったら、大事のときに動けぬ。これだけで勘弁してくれ」

うるさそうに女房の前を通り、寝殿に向かおうとする呉羽に、女房は慌てて追い縋った。

「お待ちください。帯刀のままなど・・・・・・」

呉羽の腰に下がった、不釣り合いに大きな刀に、女房が手を伸ばす。

「預けてもいいが、これはそこいらの刀ではない。強烈な妖気を放つ妖刀だ。お主、預かっている間、こいつの妖力に耐えられるか?」

腰からそはや丸を引き抜き、鞘ごと女房の鼻先に突き出して言う呉羽に、女房は息を呑んで後ずさった。

そはや丸の紋様のある右腕に、刀を同化させてしまうこともできるのだが、そうすると、いざそはや丸を使うとき、腕から刀を出現させることになる。
そんなところを人に見られたら、何と言われるかわからない。

面倒事は避けたいし、何より呉羽は、小柄な女子(おなご)なので、不釣り合いな大太刀でも持っていないとナメられる、という考えもある。

青くなって、ぺたりとその場にへたり込んでしまった女房を置き去りにして、呉羽は己を招いた本人がいるであろう、寝殿を目指した。