三条邸についた呉羽は、女房に案内されて、屋敷の一室に通された。

『どうだい。何か感じるか?』

そはや丸の声に、呉羽は部屋の中をぐるりと見渡し、小さく首を振った。

「いいや。この部屋に来るまでも、頑張って四方を探ってみたが、特に何も感じんな」

妙だ。
貴族お抱えの陰陽師ではなく、知名度もないような外法師である呉羽を呼ぶからには、外法師に頼らざるを得ない状況なのかと思っていたが、そのような妖しげな気は、微塵もない。

となると・・・・・・。

「呪詛でも頼むつもりか?」

権力者には、ありがちだ。

狙う相手が高位であればあるほど、自分と繋がりの薄い術師を使うものだ。
実力は、もちろんあるに超したことはないが、無くてもそれほど問題ない。

呪いをかけた相手側の術者に負けたところで、返された術を受けるのは、依頼した本人ではなく、雇われた術者なのだから。
失敗した呪詛によって死んだ術者が打ち棄てられていようと、依頼した貴族との繋がりが濃いお抱え者でなければ、バレることはない。

「厄介だな・・・・・・」

憂鬱そうに頭を抱える呉羽は、さらさらという衣擦れの音に、顔を上げた。