河原院から出ると、辺りはとっぷりと暮れていた。
あれほど降っていた雨はすっかり上がり、眩しいほどの月明かりが辺りを照らしている。

「ねぇ、お姉さん。おいら、もう眠くて眠くて。右丸と変わっても、いいかなぁ」

烏丸が、呉羽の袖を引っ張って、目をこすりながら言った。
いかにも子供らしい。

「ああ、ご苦労だったな。そうだ、そういえば、お前は多子様と協力して、危機を救ってくれたな。ありがとう」

呉羽が高丸に捕まっているときに飛んできた黒い羽根は、烏丸のものだ。
多子が烏丸の羽根に式神を括り付け、烏丸が飛ばしたのだろう。

烏丸は照れくさそうに笑うと、じゃあ変わるね、と呟いた。

が。

「ちょっと待って! 駄目よ!! もうちょっと!!」

いきなり多子が、烏丸に駆け寄って叫んだ。