「つむじ風に乗ることか?」

きょとんとして言う小鬼に、多子は噛み付いた。

「違うわよ! 恐ろしいこと、言ってたじゃない。人殺しとか」

「ああ、まぁ。お姫さんの希望とあれば、仕方ないのう」

口角は上がったままだが、小鬼は、さも残念そうに、腕組みをしてため息をついた。

「ふん。そのナリじゃ、そう簡単に人など殺せんさ。ま、頭を使えば、できないことはないがな」

「大丈夫ですよ、多子様。名の契約は、結構強力です。多子様が、きつく禁じておけば、したくてもできません」

そはや丸を遮り、呉羽が口を挟んだ。

「さぁ、どうするのだ。多子様の言うとおり、悪いことはせず多子様のために使い魔となるか。ここで一人呪(しゅ)に縛られて暮らすか」

呉羽に促され、小鬼は多子を見た。

「お姫さんは、わしが怖くないのか?」

珍しく気弱な小鬼の言葉に、多子は目を細めた。

「高丸のときは、怖かったけどね。今は小さいもの。可愛いわ」

途端に小鬼の顔が、梅干しのように赤くなった。
しきりに頬を掻いたり、頭を掻いたりしている。

「おいおい姫さん。これが可愛いって、どんな美的感覚だよ」

「うるさいわい。お前はホレ、可愛いなどと言われたことがないから、やっかんでおるんじゃろ。うむ。小さくなるのも、悪いものではないのぅ」

続けて何か言おうと口を開いたそはや丸だが、結局呆れたように一つ息をつき、口を閉ざした。

「うむ、良いぞ。このお姫さんの、使い魔になろう」

呉羽は、多子に頷いた。
多子も頷き返し、真っ直ぐに小鬼を見つめて、宣言する。

「じゃ、お前の名は旋風丸。以後悪さをせず、私の命に従え」

「御意」

言うなり小鬼---旋風丸は、多子の肩へと飛び移った。

「これでよし」

「よろしくね、旋風丸」

肩に乗った小さな鬼に、多子は恐れる風もなく、笑いかけた。