「そうじゃなぁ。このナリでは、簡単な目眩ましぐらいかなぁ。ああ、姿は消せるから、諜報活動にはいいかもしれぬ。つむじ風を操れるので、移動も速いぞ」

「つむじ風に乗れるのなんざ、お前ぐらいだ。ちびっこが」

「う、うるさい。じゃが移動が速けりゃ、命じられたことも早くこなせるじゃろ」

そはや丸とのやり取りを、黙って聞いていた多子は、ちらりと呉羽を見た。

「どう思う?」

「そうですね。まぁ、普通の物の怪と、何ら変わりないと思えばいいのではないでしょうか」

呉羽の意見を聞き、多子は視線を小鬼に戻した。

「じゃ、旋風丸(せんぷうまる)でどう?」

「・・・・・・呉羽と変わらぬ名付け感覚だな」

そはや丸の言うとおり、右丸の中の烏天狗に‘烏丸’と名付けた呉羽と、大して変わらない。
旋風とは、つむじ風のことだ。

「・・・・・・お姫さんは、ほんにわしを僕(しもべ)とするか」

小鬼が疑うように、多子に視線を投げる。

貴族の姫君が、鬼を僕に持つなど、確かに考えられない。
が、多子は、きょとんとした。

「そうよ。仲間は多いほうがいいわ。それも、普通の人じゃなく、変わった力を持ったモノのほうが、面白いじゃない」

妙な姫君だ。
だが小鬼は‘仲間’と言われたことがよほど嬉しかったらしく、それ以外のことには、疑問を持たなかったようだ。

「ああ、よしよし。そこまで言ってくれるなら、わしもお姫さんの僕になろう」

どこか偉そうに、うんうんと頷く小鬼だが、顔は嬉しそうに綻んでいる。
が、そんな小鬼に顔を近づけると、多子は、少し厳しく言った。

「でも、いいこと? そはや丸が言ったようなことは、しては駄目よ」