京の都の北側・蓮台野。

葬送の地であるこの場所に、一つの小さな屋敷がある。
白骨や屍の転がるこの地に好きこのんで近づく者はないし、まして住みたいなどとは、誰も思わない。
だがこの屋敷には、小さな灯が入っている。

人が、住んでいるのだ。

「全く、最近は暑くなって、供え物の傷みが早い。困ったものだ」

ぶつぶつ文句を言いながら立ち上がったのは、まだどこか幼さの残る、朽ち葉色の衣をまとった、なかなか整った顔立ちの女子(おなご)だった。

「本来死体を打ち棄てるだけのこの地に、供え物をしてくれる者がいるだけでも、有り難いと思わにゃならんのじゃないか? え、呉羽?」

妻戸に手をかけた女子・呉羽(くれは)の背中に、新たな声がかけられる。
静まり返った夜の空気によく通る、男の声だ。

「そうかもしれんな。確かに鳥辺野では、供え物などほとんどなかった・・・・・・って、おいっ!」

話しながら振り返った呉羽の目が見開かれ、彼女はつかつかと男に近づくと、乱暴に男が持っていた饅頭を引ったくった。

「お前が喰うから、私の食料がなくなるんだろうが! 喰わんでもいい物の怪のくせに、ヒトの食い物なんて、喰うんじゃないよ」

言いながら呉羽は、饅頭を置いてあった高坏に目をやる。
三つあった饅頭は、一つになっている。
呉羽の手に一つ。

「おまっ・・・・・・! 喰ったなあっ!」

「一つぐらい、くれたっていいじゃねーか。お前と俺は、一心同体だろう~」

「二個目も喰おうとしてただろうが!」

怒鳴り合うこの二人が、この屋敷の主なのだ。