――だけど、なぜだろう。 握り拳がスローモーションで迫ってくるなか、 瞼の裏に映し出されるのは、翔の笑顔。 想像上の翔は、いつもみたいに「早口っ」って、笑顔で駆け寄ってきていた。 …なんか、胸が痛い。 「…あ、そうだ。」 私に殴りかかってきた女子が、途中で握り拳をピタッと止め、 思い出したようにつぶやいた。 その場にいた私を含める全ての人は、予想外のことに彼女へと視線を集中させる。